今日は、高配当株投資と自己資本比率の関係についてまとめます。
よくネットや株本を読んでいると…
高配当株を買うなら自己資本比率○%以上必要
…みたいな書かれ方をすることがあるじゃないですか。
実は私のこの「自己資本比率○%以上」という条件を銘柄選びに使うのはとても疑問に感じているわけなんです。
確かに、自己資本比率は高いほうが財務は健全。倒産リスクは小さいと言われます。
でも、高配当株投資に自己資本比率を考慮してもあまり意味がないのではないか、というのが私のスタンスです。
なぜそう思うのか?
今回、会社四季報スクリーニングを使ってその効果について再確認してみることにしました。
(自己紹介)
2011年から高配当株を開始。
ブリクジット、チャイナショック、コロナショックなど多くの暴落を高配当株投資で乗り越えてきた個人投資家です。
買った銘柄は基本放置。長期投資で資産形成を実践中です。
なお、ご意見・ご感想はX(元Twitter)までお願いいたします。
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それでは行ってみましょう!
自己資本比率とは
そもそも自己資本比率とはなんでしょうか。
自己資本比率とは、総資本のうち純資産(新株予約権を除く)の占める割合を言い、自己資本に依存している割合を示すものです。自己資本比率が高い場合は、総資本の中の返済しなければならない負債(他人資本)によってまかなわれている部分が少なく、健全性が高いと言えます。
財務相ホームページ
難しくてよく分かりませんね…
家計の例にして雑駁に説明しますと、どのご家庭にも財産があると思います。現預金、マイホーム、株式資産などなど。これが資産です。
一方、住宅ローンやマイカーローンなどの借金もありますね。これが負債です。
資産から負債を差し引いたもの、これが自己資本となり、自己資本を総資産で割ると自己資本比率を算出できます。
グラフにするとこんな感じです。
この自己資本比率が高いと負債を資産で賄える状態
=家計としては健全で安全であるといえます。
逆に自己資本がマイナスになってしまう状態
=その家計は債務超過で経営状態は危険と言えます。
例えばマイホームや土地の価格が購入時よりも大幅に下落した場合などがこれに当たりますね。
自己資本比率と高配当株の関係
このように、自己資本比率が高ければ、財務状態は健全であり、倒産リスクは低減することは間違いありません。
なので、長期投資を前提とした高配当株を買うときは、
自己資本比率50%以上は欲しい…
無借金経営で長期投資に適した銘柄である…
なんて評価されることが多いのです。
わが日本株高配当ポートフォリオにおいても自己資本比率が低い銘柄はたくさん保有しています。
自己資本比率が低い銘柄(40%以下)
- 7593 VTホールディングス
- 3143 オーウイル
- 8070 東京産業
- 8133 伊藤忠エネクス
- 8253 クレディセゾン
- 8306 三菱UFJフィナンシャル・グループ
- 8410 セブン銀行
- 8725 MS&ADインシュアランスグループホールディングス
- 8591 オリックス
- 8793 NECキャピタルソリューション
- 8904 AVANTIA
- 9432 日本電信電話
- 9433 KDDI
- 9445 フォーバルテレコム
- 9513 J-POWER
- 3079 ディーブイエックス
財務状態が健全であれば、キャッシュリッチで安定配当が長期にわたって受けられる余地が大きいと判断できるわけです。
確かに道理としてはその通りなのですが、じゃあ自己資本比率が低いと高配当株投資として適さないのでしょうか?
実際に調べてみると実はそうとは言い切れないことが分かるんです。
過去の安定配当と自己資本比率を調査してみる
調査方法
そこで、以下の例をサンプルとして、自己資本比率と安定配当の関係について調べてみることにしました。
スクリーニング要件
- 1株配当10期前(円)>0
- [今期1株配当(会社)(円)]-[1株配当前期(円)]>=0
- [1株配当前期(円)]-[1株配当2期前(円)]>=0
- [1株配当2期前(円)]-[1株配当3期前(円)]>=0
- [1株配当3期前(円)]-[1株配当4期前(円)]>=0
- [1株配当4期前(円)]-[1株配当5期前(円)]>=0
- [1株配当5期前(円)]-[1株配当6期前(円)]>=0
- [1株配当6期前(円)]-[1株配当7期前(円)]>=0
- [1株配当7期前(円)]-[1株配当8期前(円)]>=0
- [1株配当8期前(円)]-[1株配当9期前(円)]>=0
- [1株配当9期前(円)]-[1株配当10期前(円)]>=0
何を調べたかということ、
- 10期前の配当金が0円以上(無配ではない)銘柄
- 以降、9期連続で増配または配当据置きした銘柄
これを自己資本比率10%単位で数えてみるとどのようになるかを調べてみました。
つまり、こんな配当推移とか…
こんな配当推移の銘柄がどれぐらいあるのか、自己資本比率ごとに調べてみることにあしたのです。
もしも、自己資本比率が高い=安定配当銘柄が多い
であれば、自己資本比率と比例して安定配当銘柄が多くなると言えるはずですよね。
調査結果
自己資本比率 | 安定配当銘柄 /全体銘柄数 | 割合 |
0%超~10%以下 | 31/120 | 25.83% |
10%超~20%以下 | 22/157 | 14.01% |
20%超~30%以下 | 60/341 | 17.60% |
30%超~40%以下 | 74/435 | 17.01% |
40%超~50%以下 | 95/542 | 17.53% |
50%超~60%以下 | 119/532 | 22.37% |
60%超~70%以下 | 88/479 | 18.37% |
70%超~80%以下 | 77/375 | 20.53% |
80%超~90%以下 | 33/219 | 15.07% |
90%超~100%以下 | 4/46 | 8.70% |
上記の表の見方としては…
・10期前に配当金が有額で、かつ自己資本比率0%から10%以下の銘柄は120銘柄あり、
・そのうち、9期連続で増配または配当据置だった銘柄は31銘柄ある、
という意味です。
0%超10%以下の銘柄も意外と安定配当が多い、と思う方もいるかもしれませんが、これはメガバンクや地方銀行、リース会社などが該当します。
これを他の業種(製造業やサービス業)と同列に考えるのは無理があるように見えますが、それでも、総じて言えることは、
安定配当を行えている銘柄は自己資本比率の区分に関係がなく全体の20%前後の割合であり、
むしろ、自己資本比率50%以下でも安定配当銘柄はたくさん存在していることが分かります。
つまるところ、自己資本比率○%以上という条件を銘柄選びに加えることによって、あなたは優良な高配当銘柄を逃してしまっている可能性が高い
そう、言えるのではないでしょうか。
自己資本比率が高い銘柄=安全な投資先という固定観念は捨てて、もっと自由な発想で銘柄選びをするべきです。
自己資本比率と倒産の関係
とはいえ、自己資本比率が高いほうが倒産リスクは低減することに間違いないんでしょ?
そんな声が聞こえてきそうです。
なのなの氏著 月41万円の“不労所得”をもらう億リーマンが教える「爆配当」株投資では、自己資本比率が0%~10%台の企業は、20%台の企業に比べて倒産確率が3倍になると紹介されています。
このように聞くと、やっぱ自己資本比率が高いほうがいいよね、と思うかもしれませんが、その確率は0.28%とかなりの低水準です。
つまり、あなたが倒産銘柄に出合う確率は500銘柄中わずか1~2銘柄程度ということになります。
それ以前に、財務が悪化して倒産直前の銘柄が安定配当を続けていられるはずもなく、そもそも高配当株投資家として配当が安定しない銘柄を選ぶわけないのです。
そもそも倒産の多くが財務悪化なのか?
もうひとつの疑問点は、上場廃止となる理由が財務悪化や債務超過に陥るケースはかなり少ない、という点です。
日本取引所グループのホームページには、過去の上場廃止となった銘柄の一覧が掲載されています。
この一覧の中から株式の併合や完全子会社化を除外し、債務超過・内部の管理体制問題(不正会計や架空取引などの粉飾決算)の件数をカウントしてみました。
年 | 債務超過 | 管理体制問題 |
2024年 | 1件 | 1件 |
2023年 | 0件 | 3件 |
2022年 | 1件 | 1件 |
2021年 | 2件 | 1件 |
2020年 | 2件 | 1件 |
2019年 | 1件 | 1件 |
2018年 | 1件 | 1件 |
2017年 | 2件 | 2件 |
2016年 | 2件 | 2件 |
2015年 | 4件 | 4件 |
債務超過で上場廃止となった銘柄はほぼ毎年1件程度ありますが、その多くは直近数年間に渡って赤字に転落し、配当金も無配の銘柄がほとんどです。
当然高配当株投資家はこのような銘柄を投資対象から自動的にオミットするはずです。
なので、高配当株投資において自己資本比率は恐るるに足りない指標なのです。
倒産リスクは株式投資全体のリスクとして捉える
問題はどちらかというと管理体制の問題です。粉飾決算や不正会計は自己資本比率とは関係がなく発生します。
中には成長株としてもてはやされた銘柄、例えば、古くはダイエー、最近ではグレイステクノロジーなどは記憶が新しいです。
また、運転資金の悪化によってショートするケースも多いです。2020年に倒産した7,773件のうち、黒字倒産に陥った会社は46.8%で、全体の5割近くとも言われます。
これも昔の例ですが、不動産大手のアーバンコーポレーションや江守グループなどが挙げられます。
これらは資産を回転日数で考慮する棚卸資産回転日数や仕入債務回転日数、ワーキングキャピタルなどフリーキャッシュフロー分析による調査が必要です(この話はかなり横道にそれるので割愛します)。
こうした運転資金がショートする事例や粉飾決算など決算書を見ても分からないケースも多いことから、株式投資自体のリスクとして認識していくべきです。
結論
ということで結論です。
自己資比率は気にするべきではない
そして、
粉飾決算や運転資金ショートなどを理由とした倒産リスクは株式投資を行う上で絶対に付きまとうリスクであるということです(自己資本比率に関係なく)。
高配当銘柄を選ぶ中で、
・安定配当銘柄であり
・リーマンショックやチャイナショック、東日本大震災、コロナショックにおいても過去過去減配がなく、事業も安定している
こうした長期的視点で手堅い銘柄選定を徹底していれば、自己資本比率は気にする必要はない指標と言っていいでしょう。
そして、自己資本比率を過剰に気にすることによって、将来有望な高配当銘柄を逃してしてしまう可能性のほうが高いことを忘れてはならないでしょう。
重要なことは…
なぜその投資ルールが存在するのか、
そのルールを守るメリットがあるのかを考えること、
その上で、無駄なルールはできるだけ排除してシンプルなマイルールを構築することです。
私はそんなシンプル投資法でこの10年以上株式市場を生き抜いてきました。私が実践する高配当株投資法、銘柄選別法を知りたい方は、ぜひこちらのリンクから参考にしてみてください。
有名な投資家が言っている言葉を鵜呑みにしてはいつまでも自立した投資家にはなれません。要は自分のアタマで考えることです。
あなたの資産形成がうまくいくことをお祈りしています。
みなさんと一緒に株式投資で資産形成にがんばっていきたいと思います。
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Tweet to @okiraku_tohshi今回ご紹介した本は以下の通りです。